子どもとママの翻訳家。造形を通じて評価のものさしで測らない関係をつくる「子どものアトリエ カラフル」
みなさんは、「評価されること」に息苦しさを感じたことはありませんか。特に会社という組織においては、常に評価がつきまとい、自分の気持ちや感情を上手く伝えることができず、悲しさや辛い気持ちを溜め込んでしまう人もいるかもしれません。
子どもたちにとっても、感情を表現出来ないことは大きなストレスになります。しかし言葉を十分に話せない幼少期では、子どもたちは大人と違った方法で感情を表現する必要があります。そのひとつが絵や造形といった創作活動です。
「子どもたちは作品作りを通じて自分の感情を表現します」というのは、子どものアトリエ”カラフル”を主賓する清水範子さんです。今回は清水さんに、“評価のものさし”で測らない関係についてお話を伺いました。
<左:制作担当の佐俣さん、右:清水さん>
目指したのは、ママの井戸端会議
清水さんの活動は、子どもたちの自由な造形活動を通じて、子どもとママが分かり合えるようにサポートすることです。
清水さんが開く造形教室では、たくさんの画材が用意され、子どもたち自身で種類やその色を選びます。作品作りはあくまで子ども主導で、お母さんはお子さんを見守るだけ。「ダメ」や「こうしなさい」、否定や命令的な言葉が飛び交うことなく、優しく穏やかな時間が流れます。
<子どもたちは、たくさんの画材から好きな色・形を選択する>
作品を作り終えた後は、ママと子どもで一対一の対話です。そこでは、気持ちのやりとりが繰り広げられます。作品作りと同じくらい、しっかり時間を割くのもこの教室の特徴です。
良し悪しではなく、気持ちのやりとり
言葉で分かり合えない分、行動の理由がわからず戸惑ってしまうこともありますが、だからこそ「子どもたちの感情表現と、その受け止め方がとても大切だ」と清水さんは言います。
子どもにとって、感情を表現することはとても大切です。感情表現を受け止めてくれる人が近くにいることで、「ここにいてもいいんだ」という安心感が生まれ、自己肯定感が育まれていくんです。
急にだだをこねはじめたり、わがままを言ったりしますが、子どもたちの行動にはちゃんと理由があります。言葉というツールで表現し合えない分、小さいときの絵を通じたコミュニケーションが対話の基礎を培うと思うんです。
作品作りを通じて子どもたちの感情を引き出し、親御さんへ伝える。子どもとママの翻訳家、ともいえる役割を担っている清水さん。子どもたちの作品は、「気持ちが落ちていること」が大切だと言います。清水さんの教室ではどんな作品を作るのでしょうか。
見本は用意しますが、その通りである必要は全くなくって、その子が思っている形になればいいと思っています。むしろ、見本通りに作ってしまうと、「よくできましたね」で終わってしまいます。
お母さんは上手に作れなかったことにがっかりした様子を見せるんですが、ぐちゃぐちゃでも、最後まで作れなくても、その子の気持ちさえ落ちていれば、その時その子はいいものを作った、しっかり感情を表現した、ということなんです。
だから子どもたちの作品に対して「すごいね」「上手だね」という言葉を使ってほしくないんです。良し悪しを表現するような評価の言葉をできる限り使わずに、それを見てどう感じたのか?気持ちのやり取りをしてほしいと思っています。
作品というと、どうしてもその出来栄えを気にしてしまいますし、良かれと思ってつい口から出てしまう言葉も、子どもたちにとっては”評価されている”と受け取られてしまう。だからこそ“気持ちのやり取りをする”ことが大切なんですね。
きっかけは、当事者としての“悩み”から
造形活動を通じて、子どもとママの橋渡しをしている清水さん。どうして造形を通じた活動をはじめたのでしょうか。伺ってみると、そこには当事者としての悩みがありました。
私の子どもが幼稚園に通っていた時、子どもの成長について悩んだことがあったんです。ママ友もいたし、幼稚園の先生もすごく信頼できる人ばかりだったんですが、どこか評価という目線で見られている気がして、本当に悩んでいることを相談できなかった。
だから、ママ友でも自分の親でもない、客観的に話が出来る人や場所があったらいいな、と思ったんです。そんな場所を作るために、まずは自分が欲しかった答えをみつけなくてはと思い、色彩心理を学びはじめました。
しかし学び続けるうちに、ある違和感を抱くようになったそうです。
色彩心理では、色から気持ちを読み取ることを「読み解き」といいます。色の読み解き方には、特定の決まりがありません。同じ赤色でも、その人のキャリアや熟練度、またその子が持っている”赤”という色の意味でも違ってきます。その子についてよく知ることで「今、どんな気持ちでいるのか」を理解出来るようになりましたが、じゃあその後に、「どうしたらいいんだろう?」という答えを見つけることは出来なかったんです。
清水さんが本当に知りたかったのは、「どうしてそんな感情を抱いたのか」「だから、どうしたらいいのか」ということ。それに応えるために、臨床心理や言葉かけについても学びはじめます。
そして、形あるものを持ち帰りたいというママの気持ちに応えるため、オリジナルキットを用いた自由な造形活動を行うようになりました。
良いママではなく“ありのまま”に
最後に、清水さんは、この活動を通じてお母さんに「もっと自分を出してと伝えたい」と言います。
ダメな事をしたときは怒らなきゃと思うんですが、納得しないままきつく言いつけるのも後味が悪い、でも怒らないと周りの目が気になる――。様々な感情が渦巻き、子どもとどう接したらいいのか分からなくなったという方もいます。
そんなママこそもっと自分を出してほしいんです。特に最近は”良いママ”でいようという意識が強く、とても真面目な人が多いように思います。「こんなこと言ったら笑われる?」そんな思い込みや不安を捨てて、自分の感情を伝えて欲しいと思います。そして子どもたちには、良い悪いではなくて、ありのままの気持ちを。
清水さんの言葉、みなさんはどう感じましたか?大切なのは評価の物差しで測らないこと。まずは子どもたちが作った作品に「凄いね」「上手く出来たね」という言葉以外で、あなた自身の気持ちを語ってみてはいかがでしょうか。
◎ことばのアトリエ「カラフル」
時間:毎月第二火曜日 14;50~16:20
場所:グロースリンクかちどきマナViva!